公務員の退職金1,800万円を高配当株に一括投入してはいけない理由|5年計画の設計図

退職金を高配当株に一括投入することは、そもそも制度上できません。 NISAの年間投資枠は360万円が上限だからです。1,800万円を埋めるには最短で5年かかります。

さらに深刻なのは金額のほうです。 60歳で退職して年金開始まで生活費を退職金から出す場合、 1,800万円のうち投資に回せるのは300万円という計算になります。 この記事では、その計算の中身と、現実的な5年計画をお伝えします。

📌 この記事でわかること
  • NISAに一括投入できない制度上の理由
  • 投資に回してよい金額の計算式(3つ引くだけ)
  • 60歳から65歳の空白期間に必要な金額
  • 退職金を5年かけて投資に変える設計図

そもそもNISAに1,800万円は一度に入りません

「退職金1,800万円」と「NISAの生涯投資上限1,800万円」は金額が同じため、 一度に入れられると勘違いしやすいところです。入りません。

年間上限
つみたて投資枠120万円
成長投資枠(高配当株はこちら)240万円
合計360万円

1,800万円 ÷ 360万円 = 5年。制度が最初から分割を強制しています。 高配当株だけで埋めるなら成長投資枠の年240万円が上限になるため、 成長投資枠の生涯上限1,200万円に達するまで5年かかります。

「急いで全額を運用に回さないと」という焦りは、この時点で手放して構いません。 制度が5年計画を前提に作られています。

投資に回してよい金額は、3つ引けば出ます

退職金の全額が投資の原資ではありません。次の3つを先に引いてください。

  1. 生活防衛資金:病気・介護・住宅修繕など、予定外の出費に備える現金
  2. 年金開始までの生活費の不足分:60歳から65歳までの5年間で足りない額
  3. 5年以内に使う予定のあるお金:住宅ローン残債、車の買い替え、子の結婚援助など

この3つを引いた残りが、投資に回してよい金額の上限です。 順番が逆になると、生活費を株で溶かします

60歳から65歳の空白期間が、想像以上に重い

公務員の年金(老齢厚生年金)の受給開始は原則65歳です。 60歳で完全に退職すると、5年間、収入がゼロの期間が生まれます。

生活費を月25万円と仮定して計算します。

月の生活費25万円
年間(25万円 × 12ヶ月)300万円
5年間(300万円 × 5年)1,500万円
退職金1,800万円 − 1,500万円300万円

投資に回せるのは300万円です。これでもまだ生活防衛資金を引いていません。 厳密に計算すれば、投資に回せる額はさらに減ります。

この数字を見ずに1,800万円を株に入れると、翌月から生活費を捻出するために 株を売り続けることになります。相場が下がっている時期でも売らざるを得ません。

再任用で働く場合は、大きく変わります

65歳まで再任用で働き、手取り月15万円を得られるケースで計算し直します。

月の不足額(25万円 − 15万円)10万円
5年間の不足額(10万円 × 60ヶ月)600万円
生活防衛資金(生活費2年分)600万円
退職金1,800万円 − 600万円 − 600万円600万円

投資に回せるのは600万円。完全リタイアの場合の2倍になります。 65歳まで働くかどうかが、投資可能額を最も大きく左右する要素です。

※ここでの1,800万円・月25万円・月15万円は計算例です。実際の退職手当額は勤続年数と退職理由で決まり、 支給額は退職手当の計算書で確認できます。ご自身の数字に置き換えて計算してください。

一括投入が危険な、もう1つの理由

金額の話とは別に、タイミングのリスクがあります。 投入した直後に暴落が来ると、取り返しがつきません。

仮に1,800万円を一度に入れられたとして、直後に30%下落した場合を比べます。

項目一括投入5年計画の1年目
投資額1,800万円360万円
30%下落時の含み損540万円108万円
手元に残る現金0円1,440万円
安く買い増す余力なしあり

30%下落した資産が元に戻るには、42.9%の上昇が必要です。 下落率と回復に必要な上昇率は一致しません。ここが一括投入の怖さです。

⚠️ 現役時代の暴落と、退職後の暴落は意味が違います

30代の暴落は「安く買えるチャンス」です。給料という定期収入があり、回復まで20年以上待てます。

60代の暴落は違います。新たに入ってくる収入がなく、しかも生活費のために取り崩している最中です。 下がった資産を売って生活するため、回復時に持っている株数が減っています。 同じ暴落でも、資産の減り方がまったく変わります。

5年計画の設計図

再任用で働き、投資可能額600万円というケースで組み立てます。 高配当株は成長投資枠を使うため、年240万円まで投資できます。

投資額投資済み累計この年にすること
1年目120万円120万円4〜6銘柄に分けて購入。まず慣れる
2年目120万円240万円セクターの偏りを確認して補う
3年目120万円360万円配当の受取実績を検証する
4年目120万円480万円減配した銘柄があれば入れ替える
5年目120万円600万円完成。以後は配当を受け取る

年240万円まで入れられるのに、あえて年120万円(月10万円)に抑えています。 理由は2つです。

  1. 買う時期を分散するため。5年に分ければ、どこかで高値を掴んでも影響は5分の1に収まります
  2. 途中で方針を変えられるため。1年目で「自分には値動きが合わない」と気づいたら、2年目以降を止められます

銘柄の選び方は高配当株を買う前に見る5つの数字、 配分の考え方は初心者のポートフォリオの作り方にまとめています。

退職金でやってはいけない3つのこと

① 窓口ですすめられた商品をその場で契約する

退職金が振り込まれると、金融機関から連絡が来ることがあります。 その場で判断せず、商品名を持ち帰って手数料を調べてください。 購入時手数料と信託報酬の合計が年2%を超える商品は、配当利回り4%の半分が消えます。

② 「退職金専用プラン」の条件を読まずに申し込む

退職金専用の定期預金は金利が優遇されます。当面使わない資金の置き場所としては選択肢になります。

注意点は優遇期間が3ヶ月程度と短いこと、そして 投資信託とのセット購入が条件になっている商品があることです。 定期預金の優遇金利より、セットで買う投資信託の手数料のほうが大きい場合があります。条件表を必ず確認してください。

③ 1銘柄に集中させる

利回りの高い1銘柄に600万円を入れると、その1社の減配で配当が消えます。 1銘柄あたりの投資額は、投資総額の10〜15%以内に抑えてください。 600万円なら1銘柄60〜90万円、6〜10銘柄への分散が目安になります。

配当がいくらになるかを先に見ておく

投資額600万円を利回り4%で運用した場合の配当を計算します。

投資額600万円
配当利回り4%
年間配当(NISAで非課税の場合)24万円
月あたり2万円

月2万円です。生活を変える金額ではありません。 この現実を先に知っておくことが、無理な一括投入を防ぎます

月2万円でも、年金に上乗せされる収入が生涯続く意味は小さくありません。 外食を月2回増やせます。旅行の回数が変わります。そういう規模の話として捉えてください。

なお、NISAで配当を非課税にするには受取方式の設定が必要です。 設定していないと20.315%が引かれ、月2万円は月1万6,000円ほどになります。詳しくは 株式数比例配分方式の記事をご確認ください。

まとめ:焦らないことが最大の防御です

退職金の運用で失敗する人の共通点は、振り込まれてから3ヶ月以内に大きく動くことです。

  1. NISAは年360万円が上限。一括投入は制度上できない
  2. 生活防衛資金・年金までの不足分・5年以内に使う予定額を先に引く
  3. 残った額を5年に分けて投資する
  4. 1銘柄は投資総額の10〜15%まで

退職金が振り込まれたら、まず1年間は普通預金と定期預金に置いたままにする。 その間に必要な金額を計算し、銘柄を調べる。これで十分間に合います。 運用しない1年の機会損失より、判断を誤った損失のほうがはるかに大きくなります。

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【免責事項】本記事は情報提供のみを目的としており、特定の銘柄・金融商品への投資を推奨するものではありません。記載した退職金額・生活費・利回り・再任用時の収入はすべて計算例であり、実際の金額は個人によって異なります。退職手当の支給額は勤続年数・退職理由等により決まるため、必ずご自身の退職手当計算書でご確認ください。年金の受給開始年齢や支給額、NISA制度の内容は2026年8月時点のもので、改正される場合があります。株式投資には株価変動・減配・元本割れのリスクがあります。個別の資産設計については、必要に応じてファイナンシャルプランナー等の専門家にご相談ください。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。当ブログは投資助言業者ではありません。